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2023.03.08

[レポート] 大人の学びなおし第4クール 第8回講義(2023/2/28)

大人の学びなおし第4クールの第8回講義は、名古屋大学大学院環境学研究科 中塚 武 教授を講師に迎え、「気候適応の日本史— 気候と歴史の関係から読み解く人間社会の「変動」への耐性 —」(領域:古気候学)をテーマとして講演いただいた。

◇講演要旨

近年、温暖化への懸念から、気候変動の実態を正確に理解するため、過去2千年間の気候を年単位で復元する研究が世界中で行われている。

従来、年輪≒年輪幅に基づく気候の復元は森林限界に生息する樹木を用いて行われてきたが、それでは精々400年前程度までしか叶わず、それ以前の、どこに生息していたか分からない樹木では気候の復元ができてこなかった。

しかし研究の結果、年輪セルロースの酸素同位体比を用いて、詳細な生息場所が分からない木材でも過去の気候変動を年単位で正確に復元できることが判明し、日本でも、中部地方の現生木や出土材等の年輪に含まれる酸素同位体比を用いて、過去2600年間の夏の気候の年単位での復元に成功した。さらに言うと、梅雨前線との関係から、名古屋周辺の気候を復元すると、日本本州から中国南部沿岸までの気候変動が分かるということも判明した。

この樹木年輪を使った最新の高時間分解能での気候復元データを、日本史の史資料と照合することで、全く新しい事実、即ち、弥生時代から昭和戦前期までの農耕社会では、数十年の周期で気候が大きく変動する度に、農業生産力と人口のバランスが崩れて社会が大きな混乱に陥ったこと、大きな変革があったことが分かってきた。

今回の講義では、新たな、多角的な視点で日本史全体を読みなおすと共に、もはや農耕社会ではない現代の日本でも、数十年スケールの生産力の大きな変動(高度経済成長と失われた30年)が社会に深刻な影響を与えている現状を踏まえ、我々は過去から何を学びとれるのかについて、新しい見方で考えた。

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