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【レポート】リベラルアーツナイト第7クール第5回 空間デザイン(2025/12/17)

2025.12.23

【レポート】リベラルアーツナイト第7クール第5回 空間デザイン(2025/12/17)

■リベラルアーツナイト概要
“知に出会い、アップデートする夜”
時代の課題の真因を探索し、問いを立てる能力が求められる中、リベラルアーツの重要性が認識されています。10名の講師がリレー形式で現代社会を読み解き本音で語ります。

 

■第5回:空間デザイン

本講座では、QAI一級建築士事務所主宰・東京大学生産技術研究所特任講師の新井崇俊氏にご登壇いただき、建築や都市デザインにおける『見えないものをはかる』アプローチを、理論と実践の両面から深く掘り下げてお話しいただきました。

はじめに、建築の定義や、世界の教育機関における資格制度との連動に関する分析についてお話があり、建築は、『環境』『構造』『計画』の3つの領域から成り立つことや、建築学について欧米ではアートの要素が強い反面、日本では安全性・コスト・施工性が重要視されること、地震に強い構造が求められる環境要因から、工学的要素が重要視されているという解説をいただきました。

本講演では、新井氏が実践しているEngineered Designがどんな考え方で何ができるのかをお伝えいただきました。キーワードは「はかる」。最初に提示されたのは、空間スケール・時間と人間の活動に関する分析です。人間の行動はミクロでみると謎である一方、マクロでみると統計的規則性が現れる。建築への応用として商業集積地の魅力に関するモデルや人流の数理モデルについて解説がありました。

建物を『点群とネットワーク』として捉える手法で、距離・視覚・形態情報を定量化し、コミュニケーションを誘発する空間や用途変更の可能性を科学的に評価できることも示され、まさに、見えないものを「はかる」技術の実践を教示くださいました。

建築のお話に戻り、建築設計は抽象化と具体化という相反することの繰り返し。研究者の目線で空間を分析したり、デザイナーの目線で経験から設計することが往々にしてあることに疑問を覚え、空間の新しい記述方法を提案されました。建物を点の集まりとして表現し、ネットワークでつなげることで、「距離」「視覚」「形態」が計量できるようになるというものです。

空間を“情報量の分布”として捉えることで、その上に壁や階段といった要素を配置し、さらに点のネットワークによって空間構成が望ましいかどうかを評価できる、という考え方です。この手法を応用することで、「望ましい点のネットワークを成立させるためにはどのような構造物を設計すべきか」という逆問題として空間設計を行うことが可能になります。
講義では、このアプローチの実証結果とあわせて、その仕組みについて解説がありました。

最後に、新井氏は『手段が完成して目的が混乱していること、これが私の意見では現代の特徴です』(アインシュタインの警句)、を肝に銘じて研究を進めていくと語りました。この言葉は、建築や都市計画にも当てはまっており、「役に立つこと」を信念に技術的な解決を追い、すぐに役立たない「なぜ」に目を向けなくなっている現状からの脱却のため、私たちは常に「なぜ」「なぜそれをするのか」という問いを忘れず、目的と手段を見失わない設計を目指すべきだと強調しました。               今回の講演は、理性と感性をつなぐデザインの世界に触れ、我々に多くの気づきを与える場となりました。

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