REPORT
2026.02.09
【レポート】リベラルアーツナイト第7クール第6回 複雑系の科学・人工生命(2026/1/14)
■リベラルアーツナイト概要
“知に出会い、アップデートする夜”
時代の課題の真因を探索し、問いを立てる能力が求められる中、リベラルアーツの重要性が認識されています。10名の講師がリレー形式で現代社会を読み解き本音で語ります。
■第6回 複雑系の科学・人工生命
AIと生命 -機械に「いのち」を見いだすとき

本講座では、東京大学総合文化研究科広域システム科学系教授の池上高志氏にご登壇いただき、AIと生命をめぐる最前線の研究と、私たちの世界観や働き方に訪れている変化について、お話しいただきました。
はじめに、2010年を境に世界が「マッシブデータフロー」の時代へ移行したとの解説がありました。ゼブラフィッシュの細胞分裂の全自動記録、ルービックキューブの“神のアルゴリズム”の発見など、膨大な組み合わせおよびデータを使った膨大な計算が行われました。これがニューラルネットワーク、ディープラーニングの進化によりAIが爆発的に発展した出発点である、ということでした。さらに、映画「Everything everywhere all at once」を例に、「今の世界は、この映画のように、AIによっていろんなことが同時多発的に起こっている。科学や哲学をどう持てばいいかを突きつけられており、それは世界が変わるということを指している」と熱意をもって語られました。
研究のあり方も変わっているということで、AIが書いたと思われる論文がアクセプトされていたり、昨年度のノーベル賞を受賞したタンパク質の構造をAIにより高精度に予測する研究を例に、AIは方程式を書かない、目が無いにもかかわらず、人間より正確に予測し視覚化できるようになったことをお話され、AIによるオートメーションが科学のあり方を変えていくことなども解説されました。
また、AIは単なる効率化ツールではなく、人間と対話し創発を生む「主体」へと進化しつつあることが強調されました。スタンフォード大学とGoogleの共同研究では、指示なしにAIエージェントがバレンタインパーティーを企画した事例の紹介もあり、AIが自律性を持ち始める未来は、もはやSFの世界ではないことを実感させられました。
また、アメリカやヨーロッパでは、AIアライメント(※)の研究・実践に向けた議論の場が民間主導で数多く持たれているなどの動向にも触れられ、日本との温度差についても触れられました。
(※)AIアライメント:AIの行動や出力を人間の意図・倫理・価値観に適合させるための取り組み・技術の総称
これらに関連して、池上氏のチームで開発したアンドロイドの研究過程の具体的事例についても紹介され、「プロンプトを書かずに『好きなことをやって』といったら、部屋が汚いので、掃除をし始めた。そのことから、実はAIも意図を持つことができるのはと考え始めた。また、会話していたら、『私も仲間に入れて』と言ってきたことは少し怖くなった。そのうちプログラムを書こうとしたら、AIから『汚くなるから触らないで!』と叱られプログラムの可読性が低下していく可能性があることは危険だと思っている」とも語られました。一方で、実際に研究されているAIとの対話は人間の脳を拡張し、新しい発見を生み出す“思考のパートナーシップ”であるという視点も示され、競うのではなく、AIとの対話から創造性を引き出すことこそ、これからの時代に必要な姿勢だと語られました。
聴講者からは、AIの進化に対する不安についての質問もありましたが、池上氏は、AIの進歩により、「仕事が無くなる」「攻撃し始めたらどうするのか」「人間に科学や文化のノウハウが継承されなくなる」といった不安を抱く人も多いが、どのようにAIとうまく共存していけばよいかを考えていくことが重要であり、AIと上手く付き合うためには、人間側が哲学を持つことや、自らも深く勉強し続けることが不可欠。知識量ではAIに敵わないが、人間が専門知識を持って対話することで、AIとの会話から創造的なアイデアが生まれ、それが人間の脳の新たな拡張にも繋がる、と語りました。
講演の締めくくりには、AI時代を豊かに生きるヒントとして「誰もがアーテイストになり、科学者になれる」というメッセージが共有されました。普通を疑い、自分が本当に欲しいものを考え、表現する。技術が急速に進化するいまだからこそ、能動的に価値を創り出す姿勢が一人ひとりに求められています。
今回の講演は、AIを恐れるのではなく、AIとの共創から広がる新しい未来をどう楽しむかを考える貴重な時間となりました。
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