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2020.08.07

[レポート] 第9回大人の学びなおし/文学 (2020/08/04)

名古屋大学大学院 人文学研究科 塩村教授を講師に迎え、「中根東里と芳子をめぐる物語」をテーマにご講演いただいた。本講演もコロナ対策のうえ通常開催した。また、来場が難しい方のためにウェブでも講演を視聴できるようにして開催された。(主催:一般社団法人中部圏イノベーション推進機構)

 

◇講演要旨
中根東里(1694~1765)は、名利に背を向け、生涯独身で学問を追究した隠逸孤高の文人です。ここでいう「学問」とは、残念ながら現代の大学でやっているようなそれではなく、主に古人の残した書物を味読する経験を重ねて、一度きりの人生を最善のものにしようとする営みのことです。
東里がどれくらい隠逸肌かというと、人生の節目節目で自著を焼き捨て、自己の生きた痕跡をさえ消そうとした人でした。そんな東里が53歳の年、たまたま3歳の姪、芳子を引き取り育てることになり、初めての子育てを経験します。幼な子を相手に、初めて言葉の無力さを思い知ったことでしょう。
そして、その翌年には、芳子が将来読むようにと「新瓦」という遺言のような書物を書き残します。これが結果的に、東里の残した唯一のまとまった著作となりました。そのほかにも後世の人が読むことを意識した文章をいくつか残すようになります。つまり、芳子との出会いが、東里の書物に対する態度を変化させたのです。
また、東里は長年住み慣れた下野(栃木県)佐野を離れ、晩年の10余年を相模(神奈川県)浦賀で過ごします。おそらく芳子の近くで余生を送りたいと願ったのだと思います。その間、佐野の門人たちに手紙を送り、さまざまな感懐を記しています。その書簡群が東里の人間性をうかがう好資料となっています。
人文学というのは、主に書物を通して、死者(古人)のことばに耳を傾ける営みのことで、その実践例をお話し頂きました。

◇参加者の声
・言語としてITとの親和性の話(中国語は相性〇、日本語との相性×)は大変興味深かったです。
・非常に面白かったですが、中根東里の生き方には共感できず、戸惑ってしまいます。幼子を育てている苦労が漢文で書かれているというギャップが面白いと思いました。
・ウェブでの受講は街に出るための時間制約もなく助かりますが、本当は直にお話を聞き、感じたいと思いました。

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