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2021.05.27

[レポート] 大人の学びなおし第2クール 第9回/哲学・倫理 (2021/03/10)

大人の学びなおし第2クールの第9回講義は、豊田工業大学 江口 建 教授を講師に迎え、「日本の教育不全を考える~ポスト・コロナ社会の学校教育、家庭教育、市民教育、そして道徳教育~」(領域:哲学・倫理)をテーマとして講演いただいた。

◇講演要旨
近年、学校教育現場では、主に二つの大きな方針転換があった。

一つ目は、文部科学省が新学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」という方針を打ち出したことであり、いわゆる「アクティブ・ラーニング(能動的な学び)」の導入として具現化された。

二つ目は、2018年度以降、小学校や中学校で順次、「道徳の教科化」が開始されたことである。従来の形式であるテキストを読んで登場人物の心情を理解する「心情理解型」とは異なる、「考え、議論する」道徳の推奨につながった。

これらの方針は、旧来の知識伝達型の「座学」や「板書」中心の授業の手ごたえのなさと、そこで得られる知識の実社会での汎用性の低さ、そして、旧態依然とした日本のモラル教育の行き詰まりを深刻に受け止めたものであると一応は言える。

他方で、今回の新型コロナ・パンデミックをめぐる現在進行中の出来事を観察すると、「主体的・対話的」とは到底呼べないような振る舞いや、「考え、議論する道徳」とは程遠い言動が、至る所で観察される。新型コロナ「騒動」と呼ばれる一連の現象の中には、さまざまな矛盾・思考停止が見られる。拡散・蔓延するデマ。「自分は大丈夫」と言い、居酒屋などに繰り出したあげく感染する人々。ホームパーティを開いて大量感染し、「認識が甘かった」と後悔する人々。2020年の大型連休中、おそらくは政府の自粛要請をそれなりに真摯に受け止めて「家で過ごす」ことに決めた人々が、まさに家で過ごすためのツールを調達するためにホームセンターに押し寄せ、レジが大行列になったという矛盾した事態。

「絶対に感染してはならない/感染させてはならない」という至上命題が、いつのまにか「道徳的に正しい振る舞い」と見なされるようになった結果、「感染リスクを限りなくゼロに近づけ、社会の早期回復を願う」という社会的正義が、ついには「中傷/差別/脅迫/バッシング」という「不正義」に帰着した「コロナ警察/コロナヘイト/コロナハラスメント」。

非常事態のときこそ、市民の成熟度が問われ、市民一人ひとりの理性的な判断と自律的な行動が求められる。「経済」を回すか、国民の「健康/安全」を取るか。「自由社会」を維持するのか、それとも国家による「ハイテク監視社会」を受け入れるべきなのか。こうした問いを投げかけられ、私たちは、極めて高度な倫理的判断を迫られている。

道徳とは、社会的状況における個人の意思決定のことであり、道徳の授業とはこの意思決定の方法を学習させることと言われている。そして、市民社会がどれだけ成熟しているかは、議会とは別に討議による意見形成と意思決定の場がどれだけ確保されているかである。とどのつまり、道徳教育とは市民社会の作り方である。学校教育がうまく機能しなければ、より良い市民社会は作れないのではないだろうか?

現在は、コロナウイルスのワクチン開発や接種が徐々に進みはじめ、コロナウイルスは人類全体を滅亡に追いやるほどのウイルスではないことを、今や多くの人が理解している。そろそろ落ち着いて考えるべきは、「未来に残したい社会の作り方」である。

「教育」、「コロナウイルス」、「道徳」をキーワードに、日本の教育の行く末と、次世代の「市民社会の作り方」について、考えた。

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