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2022.01.27

[レポート] フューチャーコンパス第30回講演会 (2021/12/16)

Spiber株式会社取締役兼執行役の菅原潤一 氏を講師に迎え、「Contributing to sustainable well-being」と題して講演をいただいた。

【講演要旨】
1.自然界から学び、応用する
世界には、未だ人工的に真似できないような、素晴らしい機能を持った自然素材が多数存在する。38億年の進化の過程で、生物はそれぞれの環境に最適な物質を合成する能力を獲得してきた。
例えば、クモの糸は、軽量ながら、強さとしなやかさを兼ね備えており、人類がこれまでに開発したどの繊維よりも優れた特性を持ったタンパク質である。私は、これからの時代においては、自然界からより多くを学び、テクノロジーに応用していくべきだと考えている。

2.世界ではじめて人口クモ糸を実用化
Spiberは、世界中から1万匹のクモの情報を収集・解析し、2013年に最先端の遺伝子工学技術であるバイオプロダクション※によって人工クモ糸の量産化に成功した。量産化に向けた課題解決では、小島プレス工業様に大変お世話になった。
現在は、安定した品質とコスト競争力をあわせ持つ工業製品として、量産するための技術開発に取り組むとともに、人工クモ糸研究をとおして蓄積した知見を活用し、多様な機能を持ったタンパク質の開発にも力を入れている。例えば、家畜よりも低コスト、低環境負荷で、かつ安定した品質のウール調繊維、人工皮革、人工毛皮などが製造できるほか、機能面で優れた自動車部品に応用できる可能性を秘めている。製品ありきのビジネスではなく、素材にどのような機能を持たせたいかを起点として分子設計し、目的にあわせてDNAを微調整することを得意としている。
※バイオプロダクション:微生物に特定のたんぱく質をつくるためのDNAを組み込み、培養する事によって生産する

3.持続可能な社会を実現するために
微生物は、砂糖を与えることで培養される。つまり、微生物由来タンパク質の主原料は糖であり、化学繊維に比べて石油資源への依存度が低く、生分解性も高い。
また、動物性素材と比較して大幅に少ない温室効果ガス排出量で同じ重量の素材(カシミヤ、ウールなど)を製造できることがわかっている。
今後は、このアニマル・フリーでマイクロプラスチック・フリー、さらに温室効果ガス排出も少ない素材の利用をアパレル産業や自動車部品だけでなく、医療分野、食品分野にも展開して、利用を広げることで、石油消費量の多い素材に依存せず、地上資源の循環で成り立つ持続可能な社会を実現したい。

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