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2024.01.22

[レポート] 大人の学びなおし第5クール 第4回講義(2023/12/26)

大人の学びなおし第5クールの第4回講義は、名城大学人間学部教授の伊藤 俊一先生を講師に迎え、「荘園の歴史 ー 土地制度と税制の変遷」(領域:日本史)をテーマとして講演いただいた。

 荘園とは私有の農園のことであり、貴族や寺社が所有するものであった。その私有権の内容は時代によってことなり、単に農園としての機能のみであった時期もあれば、中世になると1種の公権力となり、領主が裁判や逮捕という大きな権限を持った時期もあった。
 荘園は各時代の土地や税の制度に内包されたものであり、単に荘園(私有地)と公領(公有地)の違いと分けられるものではない。疫病や気候変動が引き起こした危機に際し、土地や税の制度改革によって農地開発のインセンティブを持たせるといった役割を果たしてきた。

 始まりは古代律令制の時代、土地は公有で、戸籍登録者に平等に「口分田」を分配。税として租調庸があり、労役によってインフラを整備。農民に平等に生活を保障し、質の揃った兵士を多く取ることが古代律令制にはあったという。
 しかし奈良時代には律令制の問題点が表出。狙い通り人口が増えたものの、大開発が限界を迎え、農地が不足。新地の開墾や三世一身法といった対応を取った所で天然痘の大流行によりまた人口が激減、そのような状況の中で「墾田永年私財法」をつくり、人口激減により荒れ果てた農村を復興するため墾田の永代私有を認めるといった方針転換を行い、律令に荘園を組み込み難を逃れた。

 平安時代半ばでは三陸沖の大地震や南海トラフの大地震、千年に一度と言われる規模の干ばつなど天災が相次ぎ、一旦古代の農村は崩壊し、家族それぞれが一代ごとに居所を変えるほどに農民が流動化した。そのような中で税を徴収するため、地方を収める国司の権限を拡大し、納税成績を競わせるといった対応を取った。
 しかし暫くすると国司の過干渉の弊害が生じるように。11世紀後半からの比較的安定した気候下での開発ブームに対して国司が鬱陶しくなったり、少ないが天災や政権交代もあり、領域型荘園(中世荘園)という国司の権力から切り離された荘園へ転換していった。領域型荘園は田畑に限らず山野や川海まで経営・開発・徴税・司法警察権まで掌握。(ちなみに所有者は天皇。)
 但しこれも長くは続かず、遺産相続でもめ、それを現場管理者身分であった武士が武力で勝ち取る(保元・平治の乱)という、武家が力を持つ時代へと流れる。

 この後は鎌倉時代、室町時代と続いていき、応仁の乱と室町幕府解体後、荘園は消えて行き、惣村が形成され、農民が定着する新たな時代へと入っていく所で講義は終了した。
 鎌倉幕府と室町幕府の危機対応の違いや貨幣流通の進展による市場経済の変化など、大変参考になる時代である。


 今回の講義では、荘園という過去の土地や税制度の学びなおしを通して、現代の危機に対して税制等はどうあるべきかについて考えた。荘園を通して奈良時代から室町時代までを眺めるという学校では習わない歴史の見方が新鮮で、参加者も非常に楽しんだ様子であった。
規制と自由、インセンティブとモチベーション、集権と分権、労働者の流動化、などなど、現代の政策・官民の在り方を考えさせられるキーワードも多かったように思う。
 「歴史は繰り返す」とは、失敗を繰り返しているという意味ではなく、いずれも時流に応じて使い分け、変化へ適応する、レジリエンスなのだろうとも感じた所もあった。今、我々に必要な変化は何かを考える良いきっかけになったことと思う。

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