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2022.12.05

[レポート] 大人の学びなおし第4クール 第2回講義 (2022/11/22)

大人の学びなおし第4クールの第2回講義は、豊田工業大学 江口 建 教授を講師に迎え、「哲学対話」が拓く人材教育と、これからの時代の教養教育(領域:哲学・教育)をテーマとして講演いただいた。

◇講演要旨

 

近年、「哲学対話」と呼ばれる活動が盛り上がりを見せている。哲学対話は、もともとマシュー・リップマンというアメリカの哲学者が、1970年代に学校教育プログラムとして開発したもので、海外では「子どものための哲学(Philosophy for Children)」の呼称で親しまれている教育スタイルである。

日本の教育現場に関して言えば、近年、文部科学省が新学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」という方針を打ち出し、2018年度以降は、順次、小学校や中学校で「道徳の教科化」と共に「心情を理解する」道徳から「考え、議論する」道徳に方針転換されたことによって、哲学対話に一気に注目が集まった。しかし、「主体的・対話的」な学びの具体的な内容が明示されず、現場が困惑している状況もある。高等学校では、2022年度から「探究学習」が開始され(「総合的な探究の時間」)、新しい科目「公共」が必修化されたことで、新たに哲学対話の導入を検討している学校が増えている。

哲学対話は、その成立背景から、最初は学校現場での実践がメインであったが、地域コミュニティでの話し合いの場作りに効果を発揮するという理由で、行政でも導入が増えている。また近年、従来の新人研修や、社内コミュニケーション研修、通常のアンガーマネジメントでは手ごたえが感じられない局面において、哲学対話に期待が向くようになり、企業での導入も急速に進んできた。実際、対話型組織開発や、チーム・ビルディング、コンセプト・メイキング、ビジョン構築などにおいて、哲学対話の効果が観察されている。

本格的に「人生100年時代」に突入し、人生の「マルチステージ化」を迎える時代に、一つの職場に長く在籍しないフリーランスの働き方や、大人の学び直し、クラウドファンディングといった(人々の共感に訴えかける)新しい資金調達法、YouTuberのような新しい職種が、普及・浸透しており、現代の若者は、高度経済成長期とは別の論理、別の価値観で仕事と向き合っている。価値観が多様化し、欲望が乱立した現代社会において、どのように組織を運営していけばよいのか。組織作りや人材教育、企業経営にとって、哲学対話がどのような貢献の可能性を秘めているのか。さらに、新型コロナ・パンデミックとウクライナ戦争は、グローバル資本主義の功罪と、サプライチェーンのあり方について、私たちに問いかける。こういったことをねばり強く思考できる知性が、これからの日本を再生し、日本の教育や医療、経済活動、政治を牽引していくのではないかと予想している。これからの時代や社会にとって必要な人間とは、どのような人間であるのか、どういう人材が社会や企業で必要とされるかといったことを考えた。

 

 

 

 

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