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2024.01.25

[レポート] 大人の学びなおし第5クール 第5回講義(2024/1/9)

大人の学びなおし第5クールの第5回講義は、昨年に引き続き名古屋大学大学院環境学研究科教授の中塚 武先生を講師に迎え、「気候変動からみた『中世』の日本とアジア ~現代に示唆するもの~」(領域:古気候学)をテーマとして講演いただいた。

 中世は戦乱の時代だと言われているが、その原因については、2 つの考え方があった。
1 つは、生産力の拡大に伴う農民層の成長が支配者との間に新たな対立を生み出したとする
階級闘争論、もう1 つは、頻発する飢饉の中で食い詰めた人々が戦乱に生き残りを賭けたとす
るサバイバルシステム論である。

 近年の気候変動に関する研究からは、中世には農産物の豊凶を伴う数十年周期の大きな気候変動が何度も起こり、豊作期に生まれた多くの若者が凶作期の飢饉の中で戦乱に駆り出されていった姿が浮かび上がってきている。つまり、ある意味で2つの考え方は両方とも正しかったと言える。

 一方、東アジアの広域に目を転じると、日本史の背景にあった気候変動は、同時期の中国の歴史にも大きな影響を与えていた。
 先史時代から現代まで、日本でも中国でも歴史が転換する時代には、常に数十年周期の大きな気候の変動があったことが分かっている。
 その意味では、日本の中世は、正に歴史の転換点の「巣窟」であったとも言えるが、同じ様相の気候変動に対する社会の応答は、日本と中国では全く異なっていたことも事実である。

 今回の講義では、中世の時代を中心に、最新の古気候データを日本とアジアの歴史に照合して、時代や地域ごとに人々が気候、即ち生産力の変動に対して、どのように対応していったのか、その特徴を探り、その現代に示唆するものについて考えた。
 昨今の震災の対応速度の変化などからも伺えるが、人間は比較的頻繁に起こる事象に対しては記憶や経験者が存在するため割と対応できるようになっていくが、長期間無かった事象や急激な変化には弱く、対応が異常に遅くなってしまう様子が伺える。
 歴史は繰り返す、景気は循環するとはよく言ったもの、過去の気候と社会の変容と政治施策の事例、数十年スケールでの変動を捉えること、昨今の気温上昇が過去に比べて急激であること(+エクスポネンシャルな現代も踏まえたい)など、気象学・日本史・古気候学の3回の講義から今アップデートすべき多くの前提・固定観念に対する示唆を得られたと思う。

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