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2024.03.11

[レポート] 大人の学びなおし第5クール 第9回講義(2024/2/27)

大人の学びなおし第5クールの第9回講義は、名古屋大学大学院情報学研究科から石井 敬子先生を講師に迎え、「人の心は変わるのか」(領域:社会心理学)をテーマとして講演いただいた。

 物理学が「物」の法則を見出す学問であるように、心理学とは、「心」の法則を見出す学問であり、さまざまなバイアス(偏り)を明らかにしてきた。
 例えば人の情報処理容量、または情報を処理するための認知資源には限界があり、同時に入力される知覚情報のすべてを知覚し処理することはできない。そのため、往々にして人は初めに見たものや元々持っている期待や信念といった思い込みが知覚する物の選別に影響してしまう。
これはデメリットばかりではなく、物事の判断を素早くするために貢献するものでもあるが、時としてエラーも引き起こす。

 人は一般的に、ある物事に対する自身の評価や信念を守ろうとし、それにあたって都合の良い情報を探し、都合の悪い情報を避けようとする。これを選択的接触というが、これは自己防衛的な動機であったり、自身の評価や信念に確証が持てない時ほど生じやすいと言われている。さらに最近では、人は自身の評価や信念を支持する情報を他者にも伝えようとする傾向があることや、他者からの評価懸念の大小が、この傾向の強度に影響するとも言われている。
 他にも、この思い込みによるエラーの例として、動いていない物が「どう動いたか答えよ」という前提のもとに動いて見えたり、同じ硬貨の大きさの見え方が貧富の差で異なるといった期待が見え方に影響する実験事例などがある。
 さらには、そういった前提やルールは他者とのやり取り、即ち集団や社会の中でも形成され、その集団内にいた人々は集団から抜け出た後も同じ前提を持ち続けるといった実験と結果もある。

 今回の講義ではこのような実験事例の紹介を通じ、文化の影響を受けた認知バイアスについてご講義いただいた。人の心の性質を考える上でなぜ文化が重要なのか、文化の変化とともに人の行動や心の性質はどう変化するのかという点に関し、最近の文化心理学および文化神経科学の知見を交えながらの講義となった。

 文化の影響と認知バイアスの解明は、心理学から神経科学、脳科学、遺伝といった多岐の領域に渡っており、かつまだこの研究は新しく、研究者も少なく、認知バイアスに対して「だからこうしたら良い」と一言で言えるものではない。
 そして、遺伝と社会文化の相互作用についてより研究が進めば、文化とは何か、文化差はなぜ生まれるのか、それがどうして人の心に影響を与えるのか、人の心は変わるのか、という問いに対する答えに大きな影響をもたらすであろうとのことであった。
 しかし1つ確実に言えることは、私達の思考は無意識のうちに社会や文化、あるいは遺伝(但し遺伝のみの影響は小さいと考えられ、遺伝と社会文化の相互作用が重要)から多くの影響を受けており、選択的接触や判断の偏向は生じているということである。まずはこの点に気づき、向き合うことは、マインドセットの第一歩と言えるだろう。

 

 

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