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2022.04.02

[レポート] 大人の学びなおし第3クール 第9回講義 (2022/03/09)

大人の学びなおし第3クールの第9回講義は、豊田工業大学 江口 建 教授を講師に迎え、「アフターコロナの市民社会の行方~パンデミックを通して考える「自由」と「抑圧」の問題~」(領域:哲学・倫理)をテーマとして講演いただいた。

◇講演要旨

新型コロナ・パンデミックと呼ばれる現象が起こってから、約2年が経過した。世界規模の感染流行に、どの国も未曾有の混乱に見舞われ、各国で都市封鎖や移動制限が実行され、経済活動は低迷した。医療に関して言えば、病院のベッドが満床になり、医療従事者たちの疲労も限界に達し、医療崩壊の危機が何度も叫ばれた。

今回のパンデミックの以前と以後で、何かが劇的に変わったわけではないのかもしれない。しかし、少なくとも、2つのことが言えるのではないか。一つ目は、「これまでも存在したが、今まで見えていなかったことが、より見えるようになった。(職業格差、医療体制、我々の日常の暮らし方)」、二つ目は、「すでに緩やかに起こっていたことが、加速化した。(社会のデジタル化、遠隔化、学校教育のあり方)」ということである。

他方で、今回のパンデミックを通して、日本という共同体の成熟度について、改めて考えさせられる機会が度々あった。非常時においては、市民一人ひとりの理性的な判断と自律的な行動が求められ、非常事態のときこそ、市民の成熟度が露呈する。今回のパンデミックにおける人々の振る舞いや発言に目を向けてみると、さまざまな矛盾や飛躍、思考停止が見られたように思える。拡散・蔓延するデマ。マスク転売やトイレットペーパーの買い占め。営業を自粛しない店や、外出自粛要請に従わない旅行者などへの中傷、脅迫、バッシング。マスクを着用していない人を取り締まる「マスク警察」。その尋常でない様子から、それらは新型コロナ「騒動」と呼ばれた。そこには、他者の視線を内面化した規律意識と同調圧力が潜伏しているように思える。

思想的には、「権利」、「平等」、「公平」、「自由」、「責任」、「義務」、「共生」といった概念によって表象されるさまざまな問題が、一気に可視化されたような印象を受ける。そして、それらの概念が、現実の事象によって肉付けされ、具体的な問題として目の前に立ち現れてきた。多様な表れ方をする一連のコロナ問題から、哲学的・倫理学的にはっきりと取り出せる問題のうちの一つは、〈自由〉と〈抑圧〉、または〈権利〉と〈義務〉の対立構造をめぐる問題である。「外出するか」or「自粛するか」。「経済を回すか」or「国民の健康・安全を取るか」。「マスクを着用するか」or「しないか」。「ワクチンを接種するか」or「しないか」。突き詰めれば、「自由社会」を維持するのか、それとも国家による「管理社会」を望むのか。こうした種類の問いを、これまでにないくらい「おのれの」問題として私たちに突き付けたのが、今回の新型コロナ・パンデミックだったと言える。普段はなかなか正面から向き合うことのない、極めて高度な判断が要求される社会的・倫理的な問いについて、「今こそ、怠けずに考え抜け」と世界のほうから迫られているようにすら感じる。

誰にとっても他人事ではありえないこの状況に身を置いて、私たちは、政治的主体として、道徳的主体として、「考える市民」として、どういう社会を実現したいと思うのか?

今回の講義では、「私たちは、どこまで個人の自由を主張し、どこまで抑圧を受け入れるのか(つもりがある/ことができる)?」、「私たちはこれからどういった社会をつくっていきたいのか?」、「国家による管理社会か?自由な討議による市民社会か?はたまた無言の同調圧力による同調社会か?」、「自分の子供や孫の世代に、どういう社会を残していくべきなのか?」を考えた。

 

 

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